(第7話)江戸時代の棺桶

   江戸の庶民の生活を伝える落語にはお葬式の話も登場します。いくつか話は
あるのですが、「片棒」という作品をどうぞ。
 おっと、その前に「早桶」(はやおけ)について解説しておきましょう。これ
がわからないと何の話か全然、わかりません。
 早桶というのは江戸時代の棺桶のことです。棺桶の注文があってからパッパ
ッと作ったので早桶といいます。形は現在の長方体とは違い、沢庵桶のような
形をしています。
 沢庵桶がわからないって? うーん、おおきなフタつきの大きなバケツのよ
うなものですよ。それに縄をかけ、棒でさして、前後を二人でかついで移動し
ます。それでは本編をどうぞ。
 ある所に商売で成功した人がいました。跡取りを決めるために三人の息子に
「自分の葬儀をどのようにするのか」質問します。
 長男は大きなお寺でお坊さんをたくさん呼んで、大勢の人に振る舞う盛代な
葬儀をするといいました。
 次男はピーヒャラ、ピーヒャラ、にぎやかにお祭りのようにするといいまし
た。
 三男は父親のケチを知っていましたので、次のように答えました。
「お金がかかるので、お坊さんも葬儀屋はたのみません」
「11時の出棺といって、8時に出棺してしまいましょう」
「早桶の片棒は喪主の私がかつぎます」
「しかし、一つだけ困ったことがあるなあ、早桶はもう一人いないとかつげな
いなあ」
 すると、父親はニコニコしながら答えたのでした。
「心配するな、片棒はおれがかつごう」
  というわけで、跡取りは三男になったという話です。