(第4話)冥途の土産
ある日、ある時、ある家の葬儀でのことです。出棺の時に未亡人がぼくの耳元でそっとささやきました。
「主人のためにお酒を入れてもいいですか?」
「うーん、本当はいけないのですが、まあ、最後ですからね」
と許可しました。すると、紙パックのお酒を一つ出して、
「あなた、あなたの好きな熱燗でなくてごめんなさい。でも、火葬中、お酒が飲み頃になったら飲んでね」
と語りかけていました。また、別のお葬式でのことです。今後は娘さんです。
娘さん「父に鉛筆を持たせていいですか?」
英裕禅師「何か書き物でもなさっていたのですか?」
娘さん「いえ、右耳に赤鉛筆、胸元に競馬新聞を入れてあげたいのです。それに、コレクションしてあったはずれ馬券もいいですか?」
英裕禅師「ど、どうぞ」
「最後に何か入れてあげるものはありますか」
という葬儀屋さんの言葉を聞くとたいていの人は何かを入れてあげます。お菓子やアルバム、写経なども見かけますが、
「あの世の旅の道中で迷ったり、四十九日に遅刻してはいけない」
とメガネや時計を用意する方が多いですね。ただし、金属ですから火葬できません。納骨の時に骨瓶に入れます。結婚指輪などのアクセサリーもだめです。
行政側からいいますと、「火葬時間が遅くなる」「ダイオキシンが発生する」「遺骨が汚れる」などの理由から、柩の中には余計なものは入れないでという指導がなされています。
特に故人がペースメーカーを使っていた場合は、火葬の時に「バーン」と爆発する危険性があるので前もって病院ではずしてもらいます。
ま、人間、生まれたままの姿で、一人で旅だっていくのですよ。