禅寺歳時記 2月 涅槃会(ねはんえ)

          
 2月15日はお釈迦さまが亡くなられた日、涅槃会です。涅槃会といえばメインは涅槃図です。お釈迦さまが亡くなられた様子が描かれています。
 この日、お寺へ行って涅槃図を見てください。さまざまな声が聞こえてきます。
まずはお釈迦さまです。
「もう、語ることはありません。私の教えはすべて、伝えましたからね。後はよろしく」
 「私は少し休んでいるだけですよ。これからも、今まで通りですよ。何も変わりませんよ」
 お釈迦さまのお姿は死者ではありません。エネルギーに満ちあふれています。亡くなったのに生きているのです。
「わー、わー、わー」
 釈迦さまの回りの弟子たちが大声をあげて泣いています。
「わーっ、わーっ、わーっ」
 動物たちも泣いている。
「わーっ、わーっ、わーっ」
 植物も枯れたり、季節はずれの花を咲かせて泣いています。ただただ、悲しくて、悲しくて、悲しんでいるだけである。
 それから、よーく見ると、涅槃図には描かれてい向かって左上に風呂敷包みのようなものが木に引っ掛かっています。この中には天上界にいるお釈迦さまのお母さまマヤ夫人が、「病気が治りますように」と送った薬が入っています。
 視線を右上に移すと心配顔のマヤ夫人が描かれています。しかし、残念ながらこの薬はお釈迦さまに届くことはありませんでした。
「ああ、間にあわなかったわ…」
 と、静かに涙を流しています。
 ちなみに、薬を天上界から投げたので投薬という言葉はここから誕生しました。
 もう一度、お釈迦さまの姿を見てみよう。
 人の死の絵であるのに美しい。まるで春の花畑のあたたかささえ漂わせています。パワーの源はお釈迦さまの全身からあふれている。特にエネルギーの中心はお釈迦さまのお顔にある。
 この表情は苦しみや悲しみの顔ではない。死者の顔ではない。すべてをやり終えた満足感の顔である。私たちを信じている顔である。さあ、涅槃図を見にお寺へ行きましょう。
 それから、お釈迦さまが亡くなった時にかけつけた動物は、ネズミ、ウシ、トラ、ウサギ…であったといわれています。そうです、ここから十二支が生まれたといわれています。